バンルン3つの事件

ラタナキリ。ある日の晩すっかり暗くなってから、夕飯を食べにレストラン街の中国風食堂に行ったところ、店の前の道路に巨大な影が。
ユニックが倒れてました。
向い側のワンブロックに大きな建物を建設中の様子だったので、作業中に倒れたのでしょう。
ごはんを食べながら、車を囲んでいる当事者らしき作業員たちの話を聞いていると、どうにもできないので明日になってから助けを呼ぶしかないんじゃないか、ってことでまとまったようです。
次の日、バンルンの街はこの話題でもちきりでした。
朝、ホテルの女の子からは「車が倒れてるの、大変よ」と、朝食を食べに屋台に行っても「車が倒れるなんて日本でもあるの?」と、ほんのちょっとの距離をバイタクに乗ったら「この街で事件が起きてるんだ、見に行ったほうがいいぞ」と。
まあ僕もわざわざ写真を撮りに行ってきたんですけど。
残念ながらこの日、少数民族の村めぐりに出かけてしまったので撤収の様子を見ることはできませんでした。

185311162_146今回のカンボジア訪問は一年の中でも暑い時期に含まれる5月。山間部のラタナキリといえど昼間の暑さは相当なもんです。
そんな晴れた日中のうだるような暑さの中、市場の建物の裏手に広がる野天市場をふらついていた時に、前方で女の人の叫び声が聞こえました。一気に人が集まって緊張が高まります。間をおかず現場のほうから走り出てきたおばさんが、僕の立っていた近くの八百屋から包丁をつかみ取って現場へ飛ぶように戻っていきました。
急いでそのおばさんの後を追ってきてみるとそこには、数人に取り押さえられて泣きじゃくってパニックになっている女性と、もうひとつの人だかりの中心でぐったりと動かなくなって地面に横たわっている赤ちゃんが。
一瞬かなり驚きましたが、よく見ているとどうやらそのパニックの女性は母親のよう、周りの人間が必死に「大丈夫だから落ち着け」となだめています。赤ちゃんのほうにはさっきの包丁をもったおばさんが、ライムの皮をむいてぐったりした赤ちゃんの顔や胸元にライムの果汁をこすり付けています。
おそらくこの暑さで突然抱いていた赤ちゃんが倒れてしまったのと思われます。栄養状態もよくないのでしょう、母親の格好からするに山から買い物に降りてきた少数民族の人のようです。
かなりの緊張した空気でしたが、周りの人の落ち着いた対応を見るに、赤ちゃんの命は無事なようです。カンボジアの知恵の応急処置をして、少し動くようになった赤ちゃんを、また別のおばさんが抱きかかえてバイタクに乗ってどこかに運んでいきました。
母親はそれでもパニックが収まらず、茶色い衣服を乱しながら何事か言いながら泣き崩れています。それをまわりの綺麗な格好の市場のクメールのおばさん達が「大丈夫赤ちゃんは生きてるから!」「母親のあなたがしっかりしなさい!」と叱咤しています。
赤ちゃんが無事病院へ運び出されてから、一時期は百人以上いた様子の人だかりも徐々にみんなが日常に戻って行ったので、外国人の僕もこれ以上野次馬していてはいけないような気がして、そっと現場を離れました。
ふと、あの場で日本人である僕が何かをすべきだったのか、何ができたのか、いまでも考えます。

185311162_179同じ日の午後、のどが渇いたので市場前の屋台のようなところでボトル入りの水を買ってお釣りを受け取った瞬間、突然後ろから強い力でTシャツの袖をひっぱられました。
何事かと振り向くとそこには、手にナタを持ち頭にクロマーを巻いた薄汚い格好の老女が。
前歯の欠けた笑顔で、ナタを構えながら手のひらを差し出しています。かなりアクティブな物乞いでした。
特に危険な気配は見られず、周りの人間もあきれたような薄ら笑いでみています。
仕方が無いのでそのお釣りの500リエルを渡しました。
満面のいやらしい笑みを見せながら去っていく老女。
今の何?と屋台のおばさんに聞くと「彼女は頭が悪いのよ、街のみんなからお金や食べ物をもらって生きてるの、ごめんなさいね」と。
その時は、変な物乞いもいるもんだなーとピンと来ませんでしたが、それから数時間たった夕方、別の場所でまたその老女を見かけました。
とぼとぼと歩いている老女に向かって、近くで遊んでいた子供達がなにか罵声のようなもの浴びせると、彼女は振り向いてナタを構えて脅かすように1歩ふみだしました。「キャー」という黄色い声を上げながらダッシュで逃げていく子供達。
その瞬間忘れていた子供のころの風景を思い出しました。
現代の嫌なものを隠して社会保障を国に任せている日本ではなかなか出会うことは無いかもしれませんでしたが、僕が子供のころには同じような風景が日本にもありました。
ホームレスとはまた違う、子供から恐れられ子供のしつけに利用されながらも人々から愛されて地域の社会保障の中で生きている乞食という人たち。僕のいたところではホイドと呼ばれ、学校帰りに出会ったりすると本気で怖がっていましたが、この老女がまさしくホイドです。
プノンペンやシェムリアップなどにいる手や足を失った物乞いやストリートチルドレンともまたちょっと違う、懐かしい地域社会の姿に出会いました。

ほんの数日でしたが盛りだくさんのラタナキリ。
次はさらなる秘境モンドルキリに行くためにクラチェ方面へ戻ります。

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